高圧シリンダ変圧比コジェネレーション蒸気タービンシステムに関する某案件は、技術的課題を解決するために、従来技術を改良する際の技術的ポイントとして、前記高圧シリンダ(HP)の定格圧力比をre、前記高圧シリンダ(HP)の連続運転許容圧力比を[r]として、[r]/re≧1.3を満たすこととした。また、これにより、高抽排気動作状況において、上記の比率関係が存在することで、抽気過程で高圧シリンダの排気口部分の圧力値を熱供給ネットワークの熱供給要求圧力値に近似するか等しくなるまで低下させることができ、高排蒸気圧と熱供給ネットワークの熱供給要求圧力との差が減少するか、高抽排気パラメータと熱供給ネットワークの熱供給要求パラメータとのマッチングが直接実現される結果、高排蒸気圧の位置エネルギーの無駄が有効に回避される、との技術的効果が実現されるとした。
本件については計4回の拒絶理由が発行された。1回目の拒絶理由と2回目の拒絶理由では本出願には進歩性がないとみなされた。また、3回目の拒絶理由では本出願の明細書は開示不十分であるとみなされ、4回目の拒絶理由では本出願にはダブルパテントの問題が存在するとみなされた。最初の3回の拒絶理由通知書で指摘された問題は比較的鋭く、応答がやや困難であったが、代理人は卓越した専門スキルと論理的説明によって上記の問題を1つずつ解消し、最終的には本件につき発明特許権を取得した。
審査官は、1回目の拒絶理由で、全ての請求項には進歩性がないと指摘した。また、1つの引用文献に説明を組み合わせて、新規性・進歩性の評価を行った。審査官は、引用文献には請求項の大部分の技術的特徴が開示されているが、「高圧シリンダ(HP)の定格圧力比をre、前記高圧シリンダ(HP)の連続運転許容圧力比を[r]として、[r]/re≧1.3を満たす」との点だけが開示されていないとみなした。また、審査官は、「引用文献1は上記の比率関係を開示していないが、抽気管を用いて高抽排気を行う方案を開示している。引用文献1では、一定の安全係数を考慮した上で、熱供給ネットワークにおける実際の熱供給要求パラメータに基づき、降温減圧装置を用いて抽気パラメータと熱供給ネットワークの熱供給要求パラメータとのマッチングを実現している。これに対し、本出願では、高圧シリンダの連続運転許容圧力比[r]を向上させることで、降温減圧装置を用いることなく[r]/re≧1.3を実現している。つまり、本出願は一定の安全係数を調整しているにすぎず、引用文献は安全係数を調整する技術を教示している」とみなした。
事実として、引用文献には非常に多くの内容が記載されており、構造部品も混み入っていた。1回目の応答時に、代理人は、引用文献は本出願と実質的に異なることを鋭敏に察知し、直接的且つ端的に要点を把握した上で、「引用文献でも、本出願の動作状況と同じく高抽排気方案を用いている。しかし、この動作状況において、同一の技術的課題を解決するために、引用文献1では降温減圧装置を用いているのに対し、本出願では、前記高圧シリンダ(HP)の連続運転許容圧力比を[r]、高圧シリンダ(HP)の定格圧力比をreに限定して、[r]/re≧1.3という関係を満たしている。つまり、両者が采用している技術手段は異なっている」と考えた。
審査官は、2回目の拒絶理由でも1回目の拒絶理由の内容を繰り返すとともに、更に、「本出願は比率関係を限定しているにすぎないが、どのような方式又は手段でその比率を実現可能であるのかを記載していない。よって、本出願は引用文献1に記載されている一定の安全係数の調整を用いているにすぎない」とみなした。
2回目の応答時には、審査官から新たに指摘された問題について、代理人はまず高圧シリンダの連続運転許容圧力比とベーン強度及びユニットの純凝縮運転時におけるユニット効率との関係について述べた。即ち、「高圧シリンダの連続運転許容圧力比を高くすれば利得を確実に実現できるが、ベーンの強度を非常に高くせねばならない。この場合には、ユニットの純凝縮運転時におけるユニット効率がやや低くなってしまうため、利得とユニットの純凝縮運転時におけるユニット効率との相対的なバランスが取れるよう、従来技術では、高圧シリンダの連続運転許容圧力比を高圧シリンダの定格圧力比reの1.3倍よりも低くしている。即ち、[r]/re<1.3としている。そのため、引用文献では降温減圧装置を用いて技術的課題を解決する必要がある。これに対し、本発明ではこのような技術的偏見を解消し、[r]/re≧1.3とすることで、降温減圧装置を設置することなく技術的課題を直接的に解決可能としている。よって、引用文献1は積極的に技術を教示してはいない。本出願は、一般的ではない設計方法を用いて蒸気タービンシステムの熱供給動作状況における経済性及びシステムの簡略化を実現しており、コジェネレーション蒸気タービンユニットの汎用性を向上させている」と述べた。
その後、審査官は3回目の拒絶理由通知書を発行し、基本的には代理人による2回目の応答内容を認めた。しかし、再び新たな問題を指摘し、本出願の明細書には開示不十分という実質的不備が存在するとみなした。具体的には、「本出願は、[r]/re≧1.3という比率関係を提示しているにすぎないが、どのような具体的手段を用いれば(例えば、どのような特別な設計を採用し、どのような高性能の材料を使用するか等)従来の技術的偏見を解消して[r]/re≧1.3を得られるのかを更に記載していない」とみなした。
3回目の応答時に、まず、代理人は当業者の立場から高圧シリンダの圧力比がどのようなパラメータに関連するのかを詳細に述べた。具体的には、ベーンの強度、ベーンの幅・材料及びユニットの純凝縮運転時におけるユニット効率等のパラメータに関連する旨を述べた。また、これらのパラメータは当業者が柔軟に選択又は制御可能であるため、当業者は、一定の安全係数を考慮した上で、ベーン幅の増大又はベーン材料のグレードアップ等の一般的に用いられる手段によって高圧シリンダの圧力比を取得することで、[r]/re<1.3又は[r]/re≧1.3を設計可能であると述べた。次に、代理人は、従来の技術的偏見では、純凝縮時の効率に配慮するために高圧シリンダの連続運転許容圧力比を低くするとの点を再び強調した。そして、本出願ではこれとは逆に、降温減圧装置を省略した場合でも本出願の技術的課題を解決可能であると述べた。
4回目の拒絶理由において、審査官は応答時の上記意見を認めたが、本出願にはダブルパテントの問題が存在する旨の通知書を発行した。そして、代理人がダブルパテントの問題を解消するための書類を提出した後に、本出願はついに発明特許権を取得した。