却下傾向からの権利取得を如何にして実現するか

 焼結機台車の側板の吊り具及び吊り上げ工程に関する某案件では、1回目の拒絶理由において、引用文献1が最も近い従来技術とされ、引用文献2との組み合わせによって、本発明の全ての請求項には進歩性がないとみなされた。また、本発明の技術方案自体が複雑ではなかったため、却下傾向は比較的明らかであった。


 1回目の応答時に、代理人は、2つの従属請求項を独立請求項1に併合して、独立請求項1により本発明の発明のポイントを更に強調するという補正を行った。また、意見陳述において、「本出願の吊り具は特定構造及び特定形状の側板に適用されるものであって、引用文献1及び引用文献2に開示されている吊りクランプ及び吊り具とは異なる。本発明の吊り具の構造はいずれも側板に適するよう特別に設けられたものであり、引用文献1及び引用文献2の技術方案では、本発明で言及した側板の緊締及び固定は実現不可能である。また、引用文献1及び引用文献2はいずれもロック構造を採用しているが、ロック構造の構成及び作用はいずれも本発明とは異なっている」ことを説明した。


 2回目の拒絶理由でも、本発明の全ての請求項には進歩性がないとみなされた。審査官は、最も近い従来技術の認定を変更し、引用文献2を最も近い従来技術とした。そして、引用文献2と本発明はいずれもヒンジ接続式の吊り具を採用しており、双方ともにフランジ/エッジを有する被吊り物を挟むものであるとみなすとともに、引用文献とは異なる技術的特徴を異なる特徴(1)及び異なる特徴(2)に分けた。異なる特徴(1)について、審査官は、「引用文献2の吊り具はタイヤの吊り上げに用いられ、タイヤの両側にはいずれも本発明のエッジに類似するリムが備わっている。よって、引用文献2におけるタイヤの吊り上げに用いられる吊り具は、エッジを有する焼結機台車の側板の吊り上げにも使用可能である。且つ、適用対象の違いは容易に想到される」とみなした。また、異なる特徴(2)について、審査官は、「引用文献1は、ボルトを用いてロックを実現する技術手段を開示している。且つ、当該技術手段の作用は本発明におけるロック構造の作用と同じである。よって、引用文献1は、引用文献2においてボルトを用いてロックを実現する技術を示唆している」とみなした。これにより、2回目の拒絶理由もまた明らかな却下傾向にあった。


 上述したように、本件は2回の拒絶理由を通じて却下傾向が明らかであった。しかし、分析の結果、当所の代理人は、その時点の引用文献と本発明の間には実質的な違いが存在し、本件がその時点の引用文献に基づき却下されるのは不当であると考えた。ところが、審査官はすでに本件却下の主観的意志を固めているように思われた。そのため、如何にして本件に対する審査官の認識を覆し、却下の意志を変えさせるかがその後の業務の難点となり、以降の応答戦略及び言葉選びが非常に重要となった。すでに2回の拒絶理由が発行されており、且つ、事実、理由及び証拠のいずれにも実質的な変化は見られなかったため、2回目の応答時の処理が不適切であると本件はそのまま却下される恐れがあった。


 続いて、審査官により本件が独断的にそのまま却下されるとの事態を回避すべく、請求項を補正することにした。即ち、審査の事実を変化させることにしたが、出願人の権利と利益を維持するために、この補正はできるだけ小さなものとした。よって、我々は、2回目の応答時に、それほど重要ではなく、且つ、基本的には請求項の保護の範囲を変えない1つの技術的特徴を独立請求項1に追加するだけにした。そして、意見陳述において、引き続き、「引用文献1及び引用文献2に開示されている吊りクランプ及び吊り具の構造はいずれも全体的な構成が本発明とは異なっている。三者はいずれも特定の被吊り対象に基づき設計されたものであり、使用上の共通点がない。引用文献1のボルトロック方式は引用文献2におけるヒンジ接続式の吊り具には適用できず、引用文献2と引用文献1の組み合わせは示唆されていない。また、本発明のボルトロック構造は吊り具をロック可能なだけでなく、調節機能も有しているため異なるサイズの側板に適用されるが、引用文献1のボルトはガラスプレートのロックにのみ使用される。よって、引用文献1のロックボルトによるロックの実施対象は本発明とは異なることが明らかであり、技術的示唆はなされていない」との考えを示した。


 3回目の拒絶理由において、審査官は依然として本発明の全ての請求項には進歩性がないとみなした。しかし、審査官の拒絶理由にはわずかな変化が見られた。審査官は、依然として引用文献2の吊り具は本発明の側板の吊り上げに使用可能であるとみなしたが、引用文献1がロック機構の設置という技術を示唆しているとの意見は弱め、ロック構造の設置は当該分野における一般的な技術手段であるとみなした。代理人は、この拒絶理由を分析した結果、審査官の却下傾向は以前ほど強いものではないことに気付いた。なぜなら、ロック構造は本出願における発明のポイントの一つであったが、審査官による一般的な技術手段との表現はそれほど盤石なものとは言えなかったからである。我々は、これを突破口として本件の権利取得に一定の可能性を持たせられると考えた。


 3回目の応答時には、請求項を補正することなく、意見陳述において、「引用文献2と本発明では、吊り上げの対象及び使用する動作原理がいずれも異なっている。引用文献2の吊り具を側板の吊り上げに用いても本発明の技術的効果は実現できない」旨を引き続き強調した。また、「引用文献1で提供されているボルトロック方式は本発明には使用できず、これを元に改良することもできない。よって、組み合わせは示唆されておらず、当該分野における一般的な技術手段でもない」旨を重点的に強調した。


 最終的に、本発明は、3回目の応答後に審査官から意見陳述を認められ、権利を付与された。